電撃文庫版「BabyPrincess」が最高過ぎて俺トゥルー号泣

公野櫻子Baby Princess」1巻を査収。


Baby Princess〈1〉 (電撃文庫)

Baby Princess〈1〉 (電撃文庫)



いやー。
まさかこんなオッサンになってライトノベル読んで泣く事になるとは思いませんでした。
それも、電車の中で。
乗ってる人があまりいない車両で、帽子を目深に被ってごまかしたけど、正直ヤバかった。
グズグズ鼻すすってたし。


さて、今作は言わずもがな、「電撃G'smagazine」誌上で連載されている読者参加企画、「Baby Princess」のノベライズ版です。
登場するキャラクターが19人姉妹というとんでもない設定ながら、誌上連載だけでなく公式サイトと連動させる事によりその全員をキャラ立ちさせる事に成功しています。
特に、公式サイトのメインコンテンツである19姉妹の日記は平日毎日更新、土日祝日も大きなイベント(家族旅行とか)の時には更新され、更には伝説となった二度のバレンタイン・デーなど、その圧倒的なクオリティと情報量に虜になる「トゥルー長男」が後を絶ちません。
かくいう僕もその一人で、かつて「19人wwwアホかwwwww」とか馬鹿にしていた頃が今では遥か遠い日の事のように思えます…。


電撃文庫でノベライズ化」と聞いた時は正直喜びよりも不安が勝りました。
「これを一体どうやって小説にするの?」と。
ノベライズ版のあらすじを知った時に、更にその不安は大きくなります。
「おいおい、陽太郎て誰やねん。天使?何て読むの?あまつか?」
ノベライズ版には、「陽太郎」という名の主人公が登場し19姉妹と同居する事になります。
しかしながら、読者参加企画という性格上、ファンにとって本来は「主人公=自分」なのです。
それなのにどこの馬の骨とも分からない男が「俺の」「僕の」「私の」姉妹達と同居してキャッキャウフフするというのは、ある意味「寝取られ」にも近い感情を抱く事になります。
更に19姉妹の家に「天使」の苗字が冠せられるなど(これまではボカされてきた事項なので)、これまで自分たちが楽しんできた誌上連載と設定が乖離してしまうのではないか(そして今後はこのノベライズ版の設定が公式になってしまうのではないか)というのも不安要素の一つでした。
ノベライズ版の作者が誌上連載や姉妹日記を手掛ける”ゴッド”公野櫻子先生とはいえ、これを今までの流れと同一のものとして受け止めていいものか、つまり購読するべきかどうか、僕は店頭で実際に手に取る直前まで迷っていました。


結果を述べると、そんなものは全て杞憂だった事になります。
読みはじめた当初は新たに発覚する設定の数々に戸惑いましたが、次第に引き込まれ、クライマックスのシーンでは最初に書いたように感動で涙ぐんでしまいました。
拒否反応が出ずに楽しむ事が出来たのは幾つか要因があります。
まず、主人公の「陽太郎」のキャラ造形に嫌味が無かった事。
いわゆるギャルゲーの主人公的な没個性な存在ではありますが、それだけではありませんでした。
家族を失う悲しさを知っており、それ故に他者へ優しくする事を知っており、何より一般的なギャルゲー主人公にありがちな鈍感さが無く、空気の読める男でした。
次に、物語自体の完成度の高さ。
19人姉妹の中に男が一人迎え入れられる、というストーリーから想像できる甘ったるい部分だけでなく、固有のコミュニティに異質な存在が混ざる事によって生まれる軋轢や、陽太郎の抱えていたどうしようもない孤独感など、ある程度シビアに、踏み込んで描かれています。
それぞれのキャラクターの心情の推移も不自然だったり唐突だったりする事がなく、納得できるものでした。
そして、これが一番なのですが、19人の姉妹が皆どこまでも愛らしく、優しくて、健やかな「いつもの彼女達」であった事です。
みんな仲良しだけれど、時には喧嘩もしたりして、でもそれは「家族」だから当たり前の事で。
家族のことを互いに思いやる事が出来て、家族のために涙を流す事が出来て、家族の幸せを願う事が出来る。
中には突然現れた「お兄ちゃん」に反発してしまう麗のような妹もいるけれど、その麗だってかつて陽太郎が生活していたみすぼらしい家を目の前にしても、今の陽太郎自身を見て「幸せに暮らしてきたんだ」と信じる事が出来る。(僕の涙腺が決壊したのはこのシーンでした)
僕がかつてそう優しく迎えられ、愛されたのと同じように、陽太郎もまた優しく迎えられ、愛されている。
僕がいつも目にしているのと同じ彼女達の姿が、作中でも描かれていたのです。


考えて見れば、僕以外にもトゥルー長男はファンの数と同じだけ存在していて、それぞれが自分だけのトゥルー家族との物語を持っているのです。
僕が、彼らが持っているストーリーは、それぞれ形が違っていて、そしてその全てが間違いではありません。
誰にもそれを否定する権利はありません。
それと同じように、このノベライズ版も「陽太郎と、彼にとってのトゥルー家族の物語」なのだと、すんなり受け入れる事が出来ました。


こうなると、気の早い話ですが二巻以降も気になってきます。
文庫一冊分のストーリーではどうしても19人全員を描ききる事は出来ないですから。
今回明確な和解がなかった氷柱とのエピソードは確実にあるでしょうし。
そして、殆ど出番のなかったあさひさんにも是非活躍の機会を!!